下北沢の街のにぎわいを分断し、歩いて楽しめる街としての魅力を壊してしまいます
下北沢の街の構造は自然発生的に生まれ、これまで少しずつ変化をしてきましたが、今回の大規模な開発計画は、これまでの街の変化のサイクルを破壊してしまいます。補助54号線が計画されている場所は、下北沢のにぎわいの中心であり、そこを道路で分断してしまうことは街のにぎわいは大きく損なわれます。また、道路によって分断された北側の地域(主に一番街商店街)は、駅から人の流れが隔離されてしまい、商業的な痛手であるばかりか、住民にとっても道路を横断しなくてはならなくなるため大変不便です。
歩行者が中心の街から、車が中心の街になってしまいます
下北沢は小田急線と井の頭線が乗り入れる公共交通の発達した場所であるため、街を訪れるほとんどの人は電車を利用しています。街の中には、荷物の積み下ろしなど、必要最低限の車は入ってきますが、それ以外の車はほとんど入ってこないため、歩行者が自由に街を歩き回ることができます。街なかへの自動車の流入をできるだけ少なくし、歩行者主体の街づくりをしていくことが都市計画の潮流となってきている現在、いますでに歩行者主体の街が実現されている下北沢にわざわざ広い道路を通し、ロータリーをつくることは時代の流れにも逆行しています。
再開発によって小規模店舗の経営が立ち行かなくなります
下北沢は個人経営による小規模な店舗がたくさん集まり構成されている街です。再開発によって高層ビルが増えることで、現在ですでに充分高いテナント料がさらに高くなることが予想されます。それにより個人経営の店舗は経営が立ち行かなくなり、結果的に大資本の店舗が増加します。小規模な店舗が集積することで生み出されてきた街の多様性は、大資本が増えることで画一化の方向へ向かいます。地元商業者たちによって組織された「商業者協議会」も、再開発による先行きの不安を訴えています。
多くの人が立ち退きを迫られます
補助54号線と、区画街路10号線(駅前ロータリー)によって多くの店舗が立ち退きを迫られます。これらの店舗では現在でも通常の商業活動が行われており、立ち退きとなれば、経営戦略・人生設計において重大な岐路に立たされることになります。また、世田谷区は、該当地の所有者に向けては説明や交渉を行っていますが、その土地の店舗を借りているテナントに対しては説明を行っていません。世田谷区は立ち退きの該当者に対しては代替地を用意することはなく、金銭での解決を行う方針です。
補助54号線は、防災問題の解決にとって効果が薄いことがわかっています
世田谷区は補助54号線が必要な理由として「防災問題」を挙げています。しかし、補助54号線が通る辺りは、東京消防庁が発表している防災危険区域からは外れており、むしろ小田急線の跡地を有効に活用することが防災にとっては有効であることがわかっています。また、都市計画の専門家は、新規道路建設よりも、建物の不燃化や、防火水槽の整備のほうが防災にとって有効であると指摘しています。
必要性が検証されないまま、道路ありきで計画が立てられています
補助54号線は1946年に戦後復興計画のなかで都市計画決定された道路です。60年間近く放置されてきましたが、小田急線の地下化(連続立体交差化事業)に伴いよみがえることになりました。なぜなら連続立体交差化事業の事業要件に、補助54号線の建設が含まれていたためです。しかし、2001年の基準変更により、連続立体交差化事業の要件から補助54号線は外れました。ところが世田谷区は、補助54号線の計画を見直すどころか、街全体の再開発計画へとシフトしていきました。そのため道路そのものの必要性が検証されることはほとんどなく、後づけ的に行われた交通量調査や環境アセスメントでも、不可解なデータが出ています。
投資金額に見合うだけの便益が見込めない、ムダな公共事業です
補助54号線と区画街路10号線の総工予定費は約300億円です。財政的に緊迫しているなか公共事業の見直しが一部で進んでいますが、下北沢の道路事業についても財政の面からの見直しが必要です。私たちが交通解析の専門家に依頼し、この事業がその投資金額に見合うだけの便益があるかどうかコストベネフィット調査を行ったところ、国土交通省が定める基準よりはるかに低いことがわかりました。(※注) ところが、世田谷区がコンサルタントに委託した調査では、根拠のない数値によってあたかも投資効果があるかのように説明されています。その後、交通解析の専門家が、世田谷区が行った調査の根拠となるデータの提示を求め情報開示請求を行いましたが、世田谷区は「データは不存在」として、それ以上の説明を拒否しています。 注: 専門家の推計では、この事業の費用・便益比率は低く0.12程度で、内部収益率は−2.4%でした。国土交通省は公共事業の内部収益率は+4%以上が望ましいとしているため、54号線と10号線の収益率はこの基準よりはるかに低く無駄な投資案件であるといえます。
住民参加が実現されないまま、計画がすすめられています
世田谷区は、一部の商店会・町内会メンバーによって構成される「下北沢街づくり懇談会」と呼ばれる任意団体とのみ形式的な話し合いを行ってきました。発足当初の「懇談会」は「スクラップ&ビルドの開発は見直し」「古いもの、新しいもの、わくわくする迷路性、巨大化していない人のサイズに合った親近感のある街づくり」を提言し、新規道路については非常に慎重な姿勢を持っていました。しかし行政の強硬な姿勢に抗し切れず、54号線については開かずの踏切解消を、10号線は補助金を条件に不要なほどの広さのものを止むを得ず受け入れさせられてしまいました。
世田谷区はこの計画を進めるに際して、「懇談会」と話し合うだけで、周辺住民はおろか、道路やロータリーの計画地に位置する店舗の経営者にさえ計画の説明を怠ってきました。この「懇談会」は外部からの参加はもとより、傍聴することすら認められていない閉じられた存在でした。しかし世田谷区は「懇談会」の存在をアリバイとして利用し、「地元の要望にもとづきこの計画を進めている」という説明をしつづけています。
2005年2月には、周辺住民が「説明会と市民参加の協議の場を求める要望書」を世田谷区長に提出しています。また、同年6月に"Save
the 下北沢"は、1万人の反対署名と要望書、独自の交通量調査、代替案を世田谷区と東京都に提出しました。同年7月には都市計画の専門家20名が連名で世田谷区長にこの計画が下北沢のアイデンティティーを反映しておらず、また住民の合意形成のプロセスを未だ踏んでいないことを強く指摘した要望書を提出しています。
2006年1月に「下北沢フォーラム」が発表したアンケート調査によると、「補助54号線」が必要と考える人が13.5%に対し、必要と思わないが60%という結果が出ました。同年2月には地元商業者510店舗が54号線の見直しを求める要望書を区長に提出しています。
特に重視すべきは2006年10月の事業認可に際し、世田谷区都市計画審議会が、地区計画を承認した経緯です。これは区の担当者自らが、地区計画に対する意見書の「賛成誘導のための雛形」を配布するという異常な形で進められました。また、こうした卑劣な工作によってさえ、寄せられた意見書は反対多数であったにも関わらず、都市計画審議会はその結果すら、強行採決で踏みにじったのです。これについては中立であるべき世田谷区都市計画審議会に対し東京都からのプレッシャーがあったことが明らかになっています。この強行採決を実行した東郷会長は、遺憾の意を表明し、辞任しました。
この計画の手続きにおいては、民主主義の精神を否定するファシズム国家のようなやり方が行われているのです。